DXコラム

「過去図面・設計データの活用による、データドリブン設計の実現」山崎和彦の製造業DXコラム 第1回

はじめに

近年、“データドリブン”という言葉がよく使われています。
データドリブンというのはデータを分析することによって状況を可視化し、それに基づいた判断を行うというもので、よく「勘と経験に基づいた属人的な判断」と対比される言葉で、DX推進におけるキーワードのひとつとして扱われています。
特に製造業においては、グローバル競争の激化やコロナ禍による市場の不透明性の増加だけでなく、脱炭素(カーボンニュートラル)をはじめとしたサスティナビリティ対応への要求が高まっている点など、揺れ動く様々な情勢に合わせたデータドリブンな判断が求められています。今回はDX推進により、データドリブンによる設計業務の効率化に取り組んだ事例をご紹介します。


1.DX推進に取り組む背景と目的

工業用機械の部品メーカーN社では、様々な機械部品の機械設計、加工、卸売販売を行っています。多品種少量生産であり、都度寄せられる注文に高い技術力と経験に基づいた柔軟な対応を行ってきました。
コロナ禍の影響で受注量が減少し経営状況が悪化したことから、より無駄の少ない効率的な生産を実現できないかと社内体制の見直しを図ることとなります。
そして、社内状況の調査、分析を通して以下のような問題が明らかになりました。

  • 見積依頼を受けてから製造に移るまで、特に設計をして図面提出に至るまでに非常に時間がかかっている。
  • 設計には過去の経験が大きく影響するため、一部の経験が豊富で能力の高い従業員への負荷が高い。
  • 新人の育成に非常に時間がかかり、うまく技術継承できていない。
  • 納期に関しても経験に頼る部分が大きく、精度もさほど高くない。そのため、飛び込み注文などにも対応していると製造現場を圧迫し、残業が発生しているケースが見られる。
  • 個別の原価計算をしていないため、どういった注文がどれくらいの粗利を確保できているかが不明である。

上記の通り、特に問題となったのは設計業務にかかわる部分でした。製造リードタイムにも大きく関わる部分で勘や経験に基づく判断が多くなされていることが分かりました。
このような問題を解決するために、“データドリブン”をキーワードにDX化を目指すことになりました。


2.DX推進の目標

DX推進にあたり、以下のような目標を設定しました。

  • 設計業務にかかる時間の短縮(30%の削減目標)
  • 設計業務担当者の残業時間の短縮(20%の削減目標)

このような目標と併せて、以下のような効果も狙いました。

  • 図面提出までの期間の短縮
  • 製品ごとの原価の把握

3.DX推進への取り組み

推進にあたり、まず、以下の内容を含む企画・計画を策定しました。

  • 設計部門に関わる業務のDX推進範囲と段階的な導入シナリオ
  • 目的、目標達成に向けた改善策
  • システムツール導入含めた改善スケジュール

上記のような企画・計画を策定した上で、DX推進によるデータドリブン設計の実現に取り組みました。取り組みのポイントは以下の通りです。

①過去の設計データの抽出
今まで、設計を行う際には、以下の流れで業務を行っていました。

・CAD(Computer Aided Design)ソフトを用いて図面を作成
・CAE(Computer Aided Engineering)ソフトでシミュレーションを行い、そのデータを基に設計の細部を修正
・再度CAEを用いたシミュレーションを通じて最終的な仕様を決定する

また、設計の際には過去の類似する納品データを検索し、参考資料にするなど、実際に設計に携わっていないと非常に時間のかかる工程が組み込まれていました。
そこで、まずは設計に必要な情報のカテゴリーを定義し、その部分の過去データを抽出することにしました。
②機械学習を通じたデータの可視化
過去の設計データから図面をカテゴリー毎にパターン化し、抽出したカテゴリーと実際に作成された図面データを機械学習ツールに実装し、設計時に必要なカテゴリーおよび強度数値や素材を選択すれば図面とシュミレーションパターン結果を表示できるようにしました。
③部品原価データと見積金額、納期の可視化
①・②と併せて、設計した部品の素材原価平均価格から製造部品に必要な原価の予想を表示するように取り組みました。また、過去の販売実績データを参考にした見積金額の算出、過去の同一部品の製造現場のリードタイムから概ねの納期予測ができるような仕組みを実装しました。

4.DX推進による効果

上記のような機械学習を利用したデータドリブン設計の推進で、以下のような効果が得られ目標を達成しました。

  • 設計業務の時間短縮と、残業時間の短縮
    過去図面を検索する時間については、仕様変更の度に短縮するカテゴリー分けした設計図面を利用した結果、CAEによるシミュレーションまでのサイクルを短縮することができるようになりました。その結果、設計業務にかかる時間は34%削減し、また残業時間についても27%削減でき目標を達成しました。これに伴い、見積依頼から見積書提出までの時間削減につながり、併せて製造リードタイムの短縮にも貢献しました。
  • 設計業務、見積業務属人化の解消
    機械学習ツールを用いて可視化をする際に、カテゴリーの選択と、カテゴリーに応じた数値を入力さえすれば図面とシミュレーション結果を可視化できるような設計にしたことにより、担当者の熟練度・経験に依存せずに設計が可能となりました。見積金額の算出も原価を想定できるようになり、想定される納期の目安も表示されるようになったため、経験の浅い若手社員でも対応が可能となりました。
  • 図面以外の設計用情報の自動連携によるデータ管理煩雑化の解消
    材料費、見積金額データを含めた図面情報以外の管理データはこれまで別々のExcelで保管されていましたが、「Microsoft Azure」上の「Azure SQL Database」に保存し、データを連携させることで入力などの手間も削減できました。

今回導入・活用したサービス

  • Microsoft Azure、Azure SQL Database Managed Instance
  • 図面自動作成ツール(オリジナル構築)

「DX推進」につきましては、ディーアイエスサービス&ソリューションまでお気軽にお問い合わせください。

本コラムは2022年6月現在の情報を基に作成しています。


著者プロフィール
兵庫県出身。1998年入社、大手産業機械メーカの生産管理システムを含め多様な業種・規模のシステムを導入・支援を実施。
入社以来、生産管理のみならず会計・販売管理の提案・販売に従事。基幹系、生産管理系両方の視点を持っていることにより近年、顧客のDX推進に軸足をおき提案活動を行っている。工場設備の稼働状況を可視化するモニタリングシステムの導入や、製造情報・検査情報のトレーサビリティ強化など現場での各情報をデータベース化することでお客様の品質・コスト・納期の諸問題を解決し業務効率化に貢献している。


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