「サポートデスク業務の自動化を通してアップセル、クロスセルに繋がった成功事例」長嶋幹雄の営業DXコラム 第5回
目次
はじめに
顧客に対するサポートの姿勢は徐々に変化しつつあります。
この十年ほどの間に従来の「カスタマーサポート」という言葉だけでなく、「カスタマーサクセス」という言葉がよく使われるようになりました。
いずれもサービスを購入した顧客に対してのサポートを意味するのですが、顧客の困りごとが起こってから対応するのが「カスタマーサポート(受動的)」、顧客の困りごとが起こる前に成功に導くようなフォローをするのが「カスタマーサクセス(能動的)」、という区分けをされています。
「カスタマーサクセス」の重要性が大きく叫ばれるようになった要因として、サブスクリプションモデルの台頭だけでなく、顧客との接点を持つことができる手段(インターネットやスマートフォンの普及)が以前よりも増えたことも大きな要因といえるでしょう。今回は顧客に対するサポートデスク業務の改善を通して成功した事例をご紹介します。
DX推進に取り組む背景と目的
V社は企業研修、社員研修といった人材育成サービスのほか採用支援サービスなどを提供している従業員数が約300名、売上高が約130億円の企業です。
業績向上に向けた取り組みの一環として、社内のヒアリング・調査の結果、下記のような問題が明らかになりました。
- カスタマーサポートセンターを外注しており、高い費用を支払っている
- 同一のサービスを継続的(または定期的)に利用する既存顧客(=リピート顧客)の比率が高く、既存顧客の囲い込み、その他サービスへの誘導を強化したい
- 顧客満足度の観点から、カスタマーサクセスを意識した活動を実施したい
- 自動化できる業務は自動化し、より収益を生む部分に人材を配置したい
調査段階で、リピート顧客を多く担当している営業担当者と顧客に対するインタビューも実施しました。これにより、契約後~研修実施前や、研修実施後に顧客と接点を多く創出している営業担当者ほど、継続的な受注に至りやすく、顧客満足度も高い上に、「アップセル・クロスセル(※1)」に繋がりやすい傾向がある、ということがわかりました。
※1 「アップセル」と「クロスセル」
- アップセル:顧客に、より上位のサービスへの移行やライセンス数などを増やしてもらうこと
- クロスセル:顧客が購入したサービスとは別のサービスを新たに購入してもらうこと
DX推進の目標
DX推進にあたり、まずは以下を目標として設定しました。
- 売上高10%向上(導入翌年度に売上高約143億円)
- カスタマーサポートセンターの縮小(外注費用の50%カット)
併せて以下のような効果も狙いました。
- 見込み(内示)案件獲得数の向上
- 既存顧客との取引金額の増加
DX推進への取り組み
DX推進にあたり、まず、以下の内容を含む企画・計画を策定しました。
- DX推進範囲と段階的な導入シナリオ
- 目的、目標達成に向けた改善策
- システムツール導入含めた改善スケジュール
上記のような企画・計画を策定した上で、以下のようなステップで取組みを行いました。
①自動化範囲の決定
まず、外注しているコールセンター窓口業務の棚卸を行いました。その上で完全に自動化する部分と人の手も加えてフォローアップする範囲を決定しました。Webサイト経由の問い合わせなどはツールを使って完全に自動化しつつ、契約締結後の研修に至るまでのフォローアップや、サービス提供後の情報提供、追加提案に関しては人の手も加えたハイブリッドな進め方を策定しました。
②カスタマーサポート・サクセスツール(Freshdesk)の採用
コールセンター業務の負担になっていた質問や問い合わせに対して、顧客専用のWebサイトを開設し、サイト上にFAQ(よくある質問)やチャットボットを設ける事ことで可能な限り自己解決してもらうようにしました。また、自己解決不可能な問い合わせに関しては、このサイトから問い合わせいただくことで「チケット(※2)」を発行しコールセンター内で情報共有を実施するシステムを採用しました。
※2 「Freshdesk」の機能:チケット
「Freshdesk」におけるインシデント(問い合わせ)の管理単位。チケットに担当者を紐づけて対応進捗管理等が可能。
③CRM・SFA・MAツールの活用方法の改善
次に、CRM・SFA・MAツールの活用方法を変更しました。V社ではSFAを用いた商談状況の管理は実施していましたが、顧客の興味関心の蓄積や情報提供は、営業担当者の判断(または裁量)に任せており、顧客別に情報提供量を調べてみると明らかに偏りが生じていました。そこで、商談状況だけでなく、顧客の興味・関心事項を営業担当者に入力してもらうようにし、その興味関心事項に応じてMAツールを利用した定期的な情報提供などを行うこととしました。契約締結後~研修実施前までに関しては研修のポイントや研修後の注意事項、事例などのコンテンツを多く配信し、研修実施後は関連する他の研修やイベントに関する情報を提供することとしました。
DX推進による効果
以上のような活動を通して、下記のような効果が出ました。
- アップセル・クロスセルを通した売り上げ目標指標の達成
導入後1年で売上高約143億円(10%増)という目標に対して、約150億円(約15%増)となりました。これは営業担当者と顧客間の信頼関係が強化されたことにより、
- よりレベルの高い研修サービスを提供できるようになったこと(アップセル)
- これまで研修サービスしか提供できていなかった顧客に対して採用支援サービスも提供できるようなったこと(クロスセル)
が大きな要因です。
また、関係が希薄になっていた休眠顧客に対して情報提供を行ったことにより、再契約や継続的に利用していただける関係(=ファン化)につながったことも売上向上に寄与しました。
- カスタマーサポートセンター費用の削減・コストセンターからの脱却
「Freshdesk」を導入により、顧客が質問や問い合わせを自己解決できるようになったことで、コストセンター化していたカスタマーサポートセンターの規模を縮小し、想定通り費用を約50%削減することに成功しました。また、属人化していた営業担当者による能動的なフォローアップ活動を、カスタマーサポートセンターのメイン業務として再依頼したことで、「顧客の成功」に直結するような業務となりました。
- 営業活動の変化とコンテンツの成熟
翌年の案件内示を多く獲得できたこともあり、各営業担当の営業活動に対する意識にも大きな変化が起こりました研修担当者と営業担当者が異なることから、「顧客満足度は研修担当者の責任」と捉える営業担当者が一定数いましたが、成約後~研修実施、研修実施~アフターフォローでの活動量が顧客満足度の向上につながり、自分の営業成績と直結することを多くの営業担当者が理解することとなりました。これにより、顧客からの生の声が多く研修担当者の元に持ち込まれ、提供している研修サービスのレベルアップにつながりました。
今回導入・活用したサービス
「DX推進」につきましては、ディーアイエスサービス&ソリューションまでお気軽にお問い合わせください。
本コラムは2022年11月現在の情報を基に作成しています。
著者プロフィール
長嶋 幹雄
埼玉県出身。営業業務に関する効率化や生産性向上に向けた提案、販売のスペシャリスト。2000年入社、入社時から当時まだ珍しかったオフィスのフリーアドレス化やビデオ会議などコラボレーション環境構築などを数多く導入。また、セキュリティ対策として「Microsoft Enterprise Mobility + Security」、「Azure Virtual Desktop(旧Windows Virtual Desktop)」を活用した高セキュリティなリモートワーク環境の導入も得意とする。現在は、デジタルマーケティングにまで活動範囲を広げており、MAツールを中心に、過去販売実績、テレコール、オウンドメディアサイト、メールマーケティングを連携させた活動で実績を上げている。